憧れの東京‥‥私は神奈川県川崎市郊外に住む50歳の主婦です。
結婚して24年、2人の子供のうち長男は早くから独立して家を離れ次女は専門学校に通っています。
新潟県の小さな町で生まれ育った私は都会暮らしに憧れ、地元の高校卒業すると、都内の菓子メーカーに就職しました。
会社の所在地は一応、東京都ですが、都心から見れば西のはずれにありました。おかげで思い描いたような華やかな都会暮らしは、ほど遠い毎日でした。
私は事務職として採用されましたが、製造業はあくまで工場がメイン。職場は工場に隣接した倉庫の2階でした。
事務所には30人程の社員がいましたが、そのほとんどが営業で昼間は出払っています。日中事務所に入るのは私を含めほんの数人で、私以外はみんな中年以上の男女でした。
私の住まいは会社が借り上げた民間アパートで、いわば社員寮のようなもの。アパートから職場までは歩いても10分もかからない近さでした。
新入社員の私の指導役についたのは、40代のベテランの女性の事務員で、この人がキツかった!
初めての土地で心細いのに加え、仕事では失敗ばかりで、叱られぱなし。おかげで毎日が緊張の連続でした。
仕事が終わるとくたくたに疲れ、週末も外出する気になれませんでした。第一、都心に遊びに行きたくても、1人では右も左もわからない有様でした。
とは言え就職して数ヶ月がたつと、私もようやく少しは仕事に慣れ、友達もできました。
同じアパートに住むゆきちゃんは、工場勤務の同僚でした。ゆきちゃんを私と同期でしたが、高校を出て半年ほどは地元で働いていたそうで、私よりも1つ年上でした。
ゆきちゃんは福岡県の出身です。こういうのもなんですが、私に輪をかけた田舎っぽい娘で、懸命に標準語を使っわりに、お国なまりがもろに出てしまうのも滑稽でした。
私もゆきちゃんも都会暮らしに憧れで東京に来ましたが、田舎育ちのコンプレックスから、都心に遊びに行くのをためらっていたのも同じでした。
でも1人ではなく2人なら心強い!私とゆきちゃんを誘い合わせ、週末に都心に出かけることにしました。
一番に挑戦したの渋谷ですが、あまりの人混みに驚いて時間位で帰ってきました。
全くウブだったなぁと思います。私たちはそれでもめげずにチャレンジを続けました。渋谷の次は原宿店新宿六本木…。
なんだかんだ通ううちに夜の盛り場の雰囲気にもなれ、食事をしたりお茶を飲んだり、ブティック巡りもできるようになりました。
平日は寮の部屋で一緒にファッション誌を眺め、流行の服やメイクを研究しました。
おかげで少しずつですが、着るものやメイクにもあか抜けてきたと思います。当時の自分を振り返ると、ゆきちゃんに対する私の気持ちは複雑でした。
親友と思っていたことと膝下ですが、正直に言って、私は内心でゆきちゃんをバカにしていた部分もありました。
ゆきちゃん小柄な私に比べれば5,6センチ背が高かったけれど、小太りのもっさりとした体型でした。
バストも私よりずっと大きかったけれど、別にうらやましいと思いませんでした。当時の私はモデルのようなスリムな体型に憧れていたからです。
ゆきちゃんは一重まぶたで、唇が分厚く、美人の基準からはかなり外れています。
それに話す言葉の奇妙なイントネーションで、田舎者だということがすぐにばれてしまいます。
一方私のほうは、容姿には割と自信がありました。150センチと小柄ですが、どちらかと言えば痩せてる方です。
特に足が細く、足首かけてしまっているのが自慢でした。 高校時代には男の子に人気があり、ボーイフレンドもいました。
ただし田舎の高校ですから、デートと言っても一緒に下校したり、日曜日に映画に見に行くと言うのがせいぜい。
彼とはキスまでしかした事はありません。 私は女の魅力と言う点では、ゆきちゃんよりも自分の方が断然勝っていると感じました。
のんびりとしていて無邪気なゆきちゃんが、私は大好きでしたが、同時に彼女を自分の引き立て役のように考えてました。
都会の雰囲気に慣れてきた私たちは、次に夜遊びにチャレンジしました。それまでは都心に遊びに行っても夕方には帰ってきましたが、夜遊びしてこそ本物の都会の女です。
私もゆきちゃんもアルコールが初心者だったので、まずはアパートでお酒を飲む練習をしてから出かけました。時代はバブル前夜、夜の盛り場はどこも賑わってました。
「かっこいい人はどこにいるかな。やっぱり新宿より渋谷か六本木よね」
「うん、私は彼にするなら、普通のサラリーマンより、カタカナ名職業の人がいいな」
そんなことを言いながら、私たちはおっかなびっくり夜の街を歩きました。夜遊びをするからには、もちろんナンパされることを期待していました。
東京で素敵な男性と巡り会い、結婚して都心のマンションで暮らす。それが私たちの夢でした。(でも、すぐに一人の人に決めるのは、もったいないわ。何人かの男男と付き合った上で1番素敵な人と結婚するのが良いわ)
そんなことを考えていた割に、実際の私は初で奥手で華やかな盛り場も歩いていても、気後れするばかりでした。
1人ではとても無理だったでしょう。隣にゆきちゃんがいたから、夜遊びの勇気を持てたのです。
若い女が夜の街を徘徊すれば、さほど苦労しなくても、男に声をかけられました。ただし私たちに声かけてくるのは、ほとんどがダサイ男の子ばかり。
たまにハンサムな人にもナンパされたと思うと、見るからにたちの悪そうな、不良っぽい男だったり。
「なかなか出会いのチャンスは無いね」「ほんとだねぇ」結局すごすごと寮に帰る。そんなことの繰り返しでした。